商談の雑談、初対面の飲み会、上司との1on1。
まだ関係が浅い人と話すとき、「何を話そう」「面白い話をしないと」と考える人は多い。
でも、相手から好かれるために重要なのは、自分がうまく話すことだけではない。
2017年、ハーバード・ビジネス・スクールのアリソン・ウッド・ブルックス氏らは、600人を超えるオンラインチャットの参加者と、110人による2,000回超のスピードデートを分析した。
心理学誌『Journal of Personality and Social Psychology』に掲載された研究で分かったのは、
質問を多くする人ほど、会話の相手から好かれる。
ということ。
ただ、面白いのは「質問をたくさんすればいい」という部分ではない。
詳しく見ると、好かれる質問と、むしろ嫌われる質問の違いまで見えてくる。
① 質問1つで「また会いたい」が変わる
研究では、初対面の2人にオンラインで会話してもらい、一方には質問を9個以上、もう一方には4個以下にするよう指示した。
結果、質問を多くした人の方が相手から好かれた。
さらに実際のスピードデートでも、質問数が上位3分の1に入った人ほど「また会いたい」と思われる回数が多かった。
研究チームの試算では、20回のデートそれぞれで質問をあと1つ増やすと、「また会いたい」というYESが平均1回分増える計算になった。
「質問上手な人は好かれる」だけなら、それほど意外ではない。
でも、質問1つの差が、実際に「もう一度会いたい」と思われるかどうかにまで関係していた。
では、質問なら何でもいいのか。
研究チームが会話の中身まで分析すると、そうではなかった。
② 質問の役割は「情報を集めること」だけではない
研究チームは368件の会話を書き起こし、質問を6種類に分類した。
その中で特に重要だったのが、相手の答えをさらに掘り下げるフォローアップ質問だった。
たとえば、
「休日は何してるんですか?」 「最近キャンプに行ってます」 「いいですね。ところでお仕事は何を?」
これも質問はしている。
でも、
「休日は何してるんですか?」 「最近キャンプに行ってます」 「キャンプ始めたきっかけって何だったんですか?」
では意味が違う。
後者は、相手が「キャンプ」と答えなければ存在しなかった質問だからだ。
研究では、フォローアップ質問が質問全体の44%を占め、こうした質問が多い人ほど、相手から「自分の話を聞き、理解しようとしてくれている」と受け取られやすかった。
質問には情報を得るだけでなく、「あなたに関心がある」と伝える役割がある。
だから、同じ質問数でも印象が変わる。
③ いい質問は、事前に全部準備できない
ここから考えると、「初対面で使える質問100選」を覚えることと、質問上手になることは少し違う。
フォローアップ質問は、相手の答えを聞くまで作れないからだ。
たとえば、
「休日は何してるんですか?」 「最近、子どもと釣りに行ってます」
と返ってきたら、
「どこに釣りに行くんですか?」 「お子さんが釣り好きなんですか?」 「昔から釣りされてたんですか?」
と、いくつもの方向に進める。
大事なのは、用意した質問リストの次に進むことではなく、相手が今話した内容から、もう少し知りたい部分を選ぶこと。
質問上手な人は、質問をたくさん暗記している人ではない。
相手の答えから、次の入口を見つけられる人だ。
④ 会話を深くしたければ「事実」から「その人」に近づく
さらに会話を深くするなら、聞く内容を少しずつ変えていく。
たとえば、
「最近、転職したんですよ」
と言われたら、
事実 「どんな会社に転職したんですか?」
経緯 「転職しようと思ったきっかけは?」
判断 「何社か見た中で、なんでそこに決めたんですか?」
ここまで聞くと、「転職した」という事実から、その人が仕事を選ぶときに何を大事にしているのかまで見えてくる。
「最近ゴルフを始めた」という話でも、
何を始めた? ↓ なぜ始めた? ↓ 何が面白い? ↓ なぜそれが面白い?
と進めば、趣味の情報から、その人自身の価値観に近づいていく。
いきなり「人生で大切にしているものは?」と聞けば重い。
でも、相手自身が出した話題から一段ずつ深く入れば、自然にその人自身の話になる。
⑤ 「相手が開けたドア」から入る
では、なぜ人は自分について話したがるのか。
2012年、ハーバード大学のダイアナ・タミール氏とジェイソン・ミッチェル氏は、「人は自分について話すこと自体に価値を感じているのではないか」と考え、面白い実験をしている。
37人の参加者に、
「自分はウィンタースポーツが好きか」 「オバマ大統領はウィンタースポーツが好きだと思うか」 「モナ・リザを描いたのはダ・ヴィンチか」
など、自分・他人・一般知識について答える3種類の質問を用意した。
さらに、それぞれの質問には1〜4セントの報酬が設定されていた。
つまり、
「自分について答えるなら2セント」 「一般知識について答えるなら3セント」
のように、自分について答えると金銭的に損をする場面もあった。
それでも参加者は、自分について答える方を選ぶ傾向があり、結果として得られるはずだった報酬の平均17%を手放していた。
別の実験では、自分について考えるだけでなく、その内容を誰かに伝えられる場合には、さらに価値が高まることも確認された。
人は、自分について話すこと自体に価値を感じる。
ただし、「じゃあ質問しまくればいい」という話ではない。
「仕事は?」 「年収は?」 「結婚してる?」 「どこ住んでる?」
とこちらが知りたいことを次々聞けば、尋問に近くなる。
フォローアップ質問が自然なのは、相手自身が出した話題を起点にできるからだ。
キャンプの話をしたなら、キャンプについて聞く。仕事の話をしたなら、仕事について聞く。
相手が開けたドアから入る。勝手に別のドアを開けない。
⑥ 一番印象が悪いのは「聞いているふり」
さらに面白い研究がある。
2025年、ブルックス氏とインペリアル・カレッジ・ロンドンのマイケル・ヨーマンズ氏は、8つの研究から「ブーメラスキング(boomerasking)」という会話パターンを調べた。
たとえば、
「週末どうだった?」 「Netflix見てた」 「いいね。私は16kmハイキングしてきたんだよね」
という会話。
質問しているように見えて、実際には自分の話をするための前振りとして質問を使っている。
しかも回答者の約83%は、いきなり自分の話をするより、一度相手に質問してから自分の話をした方が印象が良いと考えていた。
実際は逆だった。
ブーメラスキングをした人は、自己中心的で誠実さに欠けると見られ、いきなり自分の話を始める人よりも好かれなかった。
質問によって一度、
「あなたの話に興味があります」
と伝えておきながら、答えを扱わず自分の話に戻れば、「聞いているふり」になる。
「北海道行ってきました」
と言われて、
「私も去年行って〜」
と言いたくなったら、その前に、
「どこが一番良かったですか?」
ともう一度聞く。
自分の話をしてはいけないわけではない。
相手の話を一度ちゃんと受け取ってから、自分の話をする。
⑦ 「次に何を聞こう?」を考えない
では、実際の会話で何を意識すればいいのか。
一つだけ変えるなら、
「次に何を質問しよう?」ではなく、「今の答えで、この人について何が分かった?」と考える。
たとえば、
「新卒から10年間、同じ会社にいます」
と言われたとする。
会社名や仕事内容を聞けば、プロフィール情報は増える。
でも、
「なぜ10年続いたんだろう?」
と考えれば、
「10年続けられた一番大きな理由って何ですか?」
という質問になる。
「結局、一緒に働いている人が好きなんですよね」
と返ってきたら、その人が仕事で人間関係を大切にしていることまで見えてくる。
商談でも同じだ。
「採用に困っています」
に対して、
「何人採用したいんですか?」
だけで終わらず、
「どのポジションが一番採れない?」 「なぜそこが難しい?」 「採れないことで、今どこに一番影響が出ている?」
と進めば、雑談が課題理解に変わる。
質問の本質は、会話を途切れさせないことではない。
相手を一段深く理解することだ。
まとめ
ハーバード・ビジネス・スクールの研究では、質問を多くする人ほど、会話の相手から好かれることが示された。
ただし、質問数を増やせばいいわけではない。
大事なのは、
相手が出した話題から離れない。 事実だけで終わらず、その理由や判断まで聞く。 自分の話をしたくなったら、その前にもう1回だけ聞く。
そして、
「次に何を質問しよう?」ではなく、「今の話で、この人について何が分かった?」と考える。
質問の役割は、情報を集めることだけではない。
「あなたの話をちゃんと聞いている」と伝えながら、その人を理解すること。
好かれる人は、質問が多い人ではない。
相手の答えを大切に扱える人だ。
参考文献
- Huang, K., Yeomans, M., Brooks, A. W., Minson, J., & Gino, F. (2017). It Doesn't Hurt to Ask: Question-Asking Increases Liking. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 430–452.
- Rachel Layne, Asking Questions Can Get You a Better Job or a Second Date. Harvard Business School Working Knowledge(2017)
- Tamir, D. I., & Mitchell, J. P. (2012). Disclosing information about the self is intrinsically rewarding. Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(21).
- Brooks, A. W., & Yeomans, M. (2025). Boomerasking: Answering your own questions. Journal of Experimental Psychology: General.
- Imperial College Business School, 'Boomerasking': How to break the annoying habit hurting your workplace relationships

